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知識共有コミュニティQuora と出会う

(題名)

「実名制Q&A「Quora」が模索する、人ではなく“良質な問い”でつながるコミュニティ」


野口直希:編集・ライター
2020/8/14 08:00 トピック


Quoraのエバンジェリストである江島健太郎氏にインタビューした記事

Quoraは、Facebook初代CTOが立ち上げた実名制Q&Aサービス。

(項目目次)
・サービスの核は、「いかに良質な質問を生み出すか」

・必要なのは、「人」ではなく「トピック」をベースにしたコミュニティ
・日本市場は重要だが、「攻略難度が高い」

 

(以下記事)
TwitterInstagramなど、今や誰もがアカウントを持つようになったSNS。一方で、誤った情報の拡散や有名人を自殺に至らせるまでの誹謗中傷を見ていると、SNSの現状に疑問を感じる人も少なくないのではないだろうか。

そんな中、日本でも徐々に存在感を強めているのが、米国発のQ&Aコミュニティ「Quora(クォーラ)」だ。これから求められるコミュニティサービスのあり方とはどのようなもので、実現のためにQuoraは何を行っているのか。エバンジェリストとして日本での普及に携わる江島健太郎氏に聞いた。

Facebook初代CTOが立ち上げた実名制Q&Aサービス
Quoraは2009年にアメリカで創業し、2010年に運営を開始した実名制のQ&Aコミュニティサービス。全世界での月間ユニークビジター数はすでに3億人を超えており、売り上げは非開示だが、広告収益などによって収益を得ている。

PCで表示したQuoraのフィード画面。ユーザーが興味を持ちそうな質問とそれに対する回答が表示される
創業者は、マーク・ザッカーバーグとともにFacebookを立ち上げた初代CTOのアダム・ディアンジェロだ。彼が軌道に乗りつつあったFacebookを離れてQuoraを開発したのは、両者のプラットフォームとしての思想が根本的に異なるからだと江島氏は説明する。

「リリース当初こそ(特定の大学の学生だけが参加する)クローズドなコミュニティだったFacebookですが、初期から万人に開かれた『コミュニケーションの場』を目指していました。それに対して、Quoraのミッションは『世界中の知識を共有し、広め深めること』で、どちらかといえばWikipediaに近い性質を持っています。ちなみに、Wikipediaの創設者であるジミー・ウェールズも、Quoraの利用者です」(江島氏)

創業当初からアメリカには、日本の「Yahoo!知恵袋」に当たる「Yahoo Answers」などのQ&Aサイトが競合として存在したが、Quoraが特徴的なのは実名制を採用していることだ。匿名での投稿も選択できるが、質問者や回答者の氏名・肩書きは基本的に公開されるため、荒らし目的の投稿が減り、どのような属性の人物による投稿なのかを踏まえながら回答を読むことができる。

質問によってはそのジャンルの権威者や著名人が回答していることもあり、「ジャッキー・チェンは実際に会うと、どんな感じの人ですか?」という質問にチェン本人が回答していたり、Apple Watchのデザインについての質問に対してApple Watchのプロダクトデザインリーダーが回答していたりもする。

「最近のJ-POPの歌詞はひどくありませんか?」といった定量的な答えのない質問も少なくないが、こうした質問に対して放送作家が回答し、歌詞の大半を「猫飼いたい」が占める曲で盛り上がる若者の感性に感心していたり、ギター講師がレベッカ『フレンズ』のひらがなばかりの歌詞を「当時の女の子らしさを表現している」と評価していたり、さまざまな肩書きのユーザーが独自の意見を展開しているのが面白い。日本語版では最近、新型コロナウィルスに関する質問に対して医師が回答することも多い。

日本語版は2017年にリリースされており、現在は24の言語に対応している。2018年(日本語版では2019年)には、「スペース」機能が追加された。この機能では「最近読んだ本」「世界中の飲食」といったトピックごとに、質問に限らず自由に文章を投稿できる。これはQ&Aだけではカバーできない時事性のある話題に対応するのが狙いだという。スペースに参加するためには、管理者の承認が必要だ。

日本語版のユーザー数などは非公開だが、「良い意味で期待を裏切るペースで成長を続けている」と江島氏。今年5月には世界中の優れた質問と回答をまとめたムック本『Quora 世界最大級の知識共有プラットフォーム ビジネスと人生の課題をすべて解決する』(角川アスキー総合研究所)が日本で発売されており、今後もさらに積極的に日本での展開を進めていくそうだ。

サービスの核は、「いかに良質な質問を生み出すか」
江島氏によれば、Quoraがサービスを運営する上で特に意識しているのが、「良質な質問が多く投稿される環境」だ。ここでいう良質な質問とは、恋愛観や子供の育て方といった人によって最適解が全く異なる個人的な悩みではなく、より一般的な文章で表現され、普遍的な答えを導きやすい質問、つまり、Quoraのミッションである「世界中の知識を共有し、広め深めること」に貢献しやすい質問を指す。Quoraでは「素晴らしい回答や積極的な議論を引き起こすためには、何より良質な質問が潤沢であるべきだ」と結論づけている。

良質な質問を増やすため、Quoraでは投稿された質問を後から誰でも編集することができる。これによってより多くの人に訴求しやすく、わかりやすい質問文が形成されていくわけだ。改稿された質問が元の質問者の意図に沿わなかった場合は改めて修正すればよく、情報を公共財として捉える発想もWikipediaに近い。

良質な質問の投稿者には、金銭的なインセンティブも用意されている。優れた質問・回答を投稿していると判断されたユーザーは「パートナープログラム」に招待され、以降は良質な質問を投稿すると報酬を得られるようになる。報酬額は閲覧数などによって決められており、1つの質問で1万円以上稼げるケースも少なくない。過去には1つの質問で100万円以上の報酬を得たユーザーもいるという。

AIを初めとするテクノロジーも、良質な質問を生む環境を下支えしている。Quoraではニュースフィードの表示などに機械学習によるパーソナライズを取り入れており、その指標にはユーザーの読了時間や投稿者が執筆にかけた時間、シェア率など約200もの数値が参照されている。ほかにも、いま読んでいる質問に似た質問のレコメンドやコメントの表示量など、さまざまな要素が機械学習によって規定されている。

必要なのは、「人」ではなく「トピック」をベースにしたコミュニティ
Quoraは、Yahoo!知恵袋などの質問サイトや「mixi」のトピックごとのコミュティといった既存サービスに似た要素が多く、一見すると新しいコミュニティサービスだという印象は受けない。しかし、江島氏は「今のネットにこそ、Quoraのような存在が必要だ」と語る。

TwitterInstagramといったSNSを情報収集手段として活用する人は増えているが、一方でユーザーが増えすぎたがゆえの問題も多発している。その一例が、「フェイクニュース」の拡散や、度が過ぎた誹謗中傷だ。

こうした現状を、「今の日本には優良な言論を交わせる空間が減ってきている」と江島氏は捉えている。では、なぜそうなってしまったのか。その理由を江島氏は、現在勢いのあるサービスの多くが「人」を軸にしたつながりのメディアだからだと指摘する。

「他人と相互に友達になるのではなく、ただ『フォローするだけ』というTwitterの仕組みは、当時は画期的で、多くの有名人が利用するきっかけにもなりました。しかし、今はそれがむしろ仇になっています。例えば、フォロワー1000万人の有名人と10人の専門家が同じ話題に言及したとしても、Twitterはフォロワー数がそのまま力になるゲーム。前者の誤った発言を後者が指摘しても、多くの人はそれに気づけない仕組みになっています」(江島氏)

こうしてエコーチェンバー(閉鎖的な空間でコミュニケーションを重ねることで、特定の信念が強化されること)が強まっていき、既得権益を持っている人がますます強化されてしまう。その先にあるのが、いわゆる「トランプ現象」や「ブレグジット」を巡る混乱だ。ブログのような情報発信プラットフォームの「note」など、各人がじっくりと執筆できる場も存在するが、「『〇〇さんの投稿が見たい』という『人』をベースにしてつながるプラットフォームだという点では同じです」と江島氏はいう。

これに対して、Quoraがベースにしているのは人ではなく情報(トピック)だ。回答の表示順アルゴリズムも人気だけが基準ではないし、疑問を解消するために閲覧する過程でさまざまな意見に触れやすい。

Quoraにもユーザーのフォロー機能は存在するし、スペース機能もスター投稿者の権力化を助長する可能性もある。それでも、「人ではなく『情報』をベースにしている点は揺るがない」と江島氏は強調する。

「Quoraには『Be Nice, Be Respectful(親切にしよう、尊敬の念を持とう)』というポリシーが存在します。ヘイトスピーチや嫌がらせに該当すると認定されたユーザーには制限が課され、場合によってはアカウントが凍結されます。日本語版ではまだ大きな問題は少ないですが、アカウントを凍結された方もいます。表現の自由を優先しがちな他のメディアに比べると、強行的なポリシーを提示していますが、それはプラットフォームとして重視するのが自由なコミュニケーションではないからです。Quoraのミッションはあくまで『知識を広め深めること』なので、それに寄与しない発言は取り締まるべきと考えます。これからはそうした規制によってこそ、生産的な議論が成立するのではないでしょうか」(江島氏)

日本市場は重要だが、「攻略難度が高い」
Quora日本語版では、引き続きサービスを拡大させてユーザー獲得を狙うともに、まだ開始から1年程度のスペース機能の普及に注力していく。スペースの管理者や良質な書き手に、より報酬が入りやすくなる仕組みなども検討中。江島氏によれば、グローバル全体の中でも、日本語版は重要な位置づけにあるという。

「アジアで初めてリリースされたことからもわかるように、日本語版はアジア展開の方向性を位置付ける役割を担っています。また、シリコンバレーではかねてから『日本でのコンシューマー向けサービスは難しい』と言われてきました。さまざまなメディアが存在し、上質なエンタメも多い日本人の可処分時間を奪うのは大変だと認識されています」(江島氏)

ユーザー分布に偏りがなく、あらゆる層の人々が使用する英語版に比べると、日本語版は外国語版のQuoraを使っていた人や海外に在住する日本人の使用率が高いが、それでも最近はあらゆる層での利用が満遍なく増加しているという。特に人気の質問ジャンルは、仕事・キャリア・教育だそうだ。

「私は英語版のQuoraに魅了され、運営に関わるようになりました。Twitterを初めとする最近の日本のSNSは、本当にノイズが多いと感じます。私自身、Facebookの悪い意味での馴れ合いになじめなかったこともあるので、Quroraはあくまでトピックについて話し合う場所であり続けてほしい。質の高いネット言論の場を維持したいです」(江島氏)